YI

ロジカルに考え、リリカルに語れ。

建築現場について

前に居た現場から、竣工するというメールが来た時は驚いた。こんなに早く終わらないだろうと思っていたし、実際私が見た工程表は要求された期日を少しはみ出していた。無茶とも言える施主の要求に応えた現場の人々と、一緒に仕事ができた事は誇りに思ってもいいのかもしれない。

 今でも現場での記憶が不意に浮かぶ。灯りを上の階から消していく時の静けさだったり、発注する資材数を間違えて怒られている時の感情だったり、大雨の時の外部足場の揺れ方だったり、色々だ。

建物を作るのは時間がかかる。その分、現場を歩き回ったおかげで、その場所と記憶が密に結びついている。壁の向こうに場所が隠れてしまっていても、そこには私の記憶が確実に有る。

 建物は関わった人の記憶を集め、結晶の様に峻厳させる。新しくその建物を使う人達も、場所と記憶を結びつけて、時間を積み重ねることができるような、そんな建築になっていればいいと思う。

 この先の人生で私はしつこいぐらいに、最初の現場を思い出すだろう。誰かの記憶と私の記憶が重なった建築をいつか見に行きたい。