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ロジカルに考え、リリカルに語れ。

建築における想像力の可能性/ビャルケ・インゲルスという事例

価値観の分断が進み、建築の可能性が潰れていく瞬間を何度か目にした。建築に限らないが、想像力の可能性が行き詰まっていく中でこそその可能性を追求し共有したい。そんなことをここ数年考えている。

想像力の可能性について考えた最初のきっかけは磯達雄五十嵐太郎の著した、「ぼくらが夢見た未来都市」という本だった。

自分達でも1960年代から建築・都市がその時代の想像力とどう結びついたか俯瞰したこともある。

かつて建築家は想像力を駆使し、インポッシブルアーキテクチャを提案してきた。
インポッシブル・アーキテクチャー | 取材レポート | インターネットミュージアム

その想像力や知見は、2020年においてSFプロトタイピング、スペキュラティブデザインやデザインフィクションなどに上手く接続できれば、その可能性を発展させる事ができるのではないだろうか。

培ってきた想像力を使い、今ここにある未来、建築のSF的可能性を追求する為には何をすべきだろうか。

さて、現在において建築のSF的可能性を思考し実践していると言える人物がいる。ビャルケ・インゲルスだ。2020年の始まりから彼の関わる刺激的な情報に触れることとなった。

まずは「WovenCity」だ。トヨタが掲げる未来都市開発は、BIGの名前があることで、一気に熱を持ったプロジェクトとなった。詳細なイメージに関してはビャルケによるプレゼン動画を見てもらおう。


Toyota Woven city

このプレゼン自体がxRを意識しているような、未来感のある動画だと思う。

また、3/31まで森美術館で行われていた「未来と芸術展」においては海上都市プロジェクトとバーニング・マンでの展示、2つのプロジェクトの展示を行っている。
www.mori.art.museum
https://www.mori.art.museum/files/exhibitions/2020/01/27/faa_worklist.pdf

wired.jp
www.designboom.com

優れた建築家が優れたインスタレーションを制作することは珍しくはないが、ここまで性質の違いがあるプロジェクトを、クオリティを維持しながら行えるのはBIGぐらいなものだろう。

また、「WEST WORLD Season 3」では2058年のLAをコンサルティングしており、フィクションの世界でも能力を発揮している。
www.architecturaldigest.com

さらに3/18に公開されたインタビュー記事、「ビャルケ・インゲルスの火星移住計画」では彼のSF的思考を垣間見ることができる。
www.ssense.com

このインタビューでビャルケが述べていることは全て非常に面白いが(コールハースに対する思いなど)、いくつか気になった考え方を抜粋する。

SF小説ウィリアム・ギブスン(William Gibson)の「未来はすでにここに存在している。ただ隈なく行き渡っていないだけだ」という言葉に影響を受けていると言ってもいい

建築の世界では、事実をただ伝えるんじゃなくて「物語」として伝えるストーリーテリングが、非常に重要なんだ。建築の仕事は、人との共同作業で進んでいく

1つ目の引用はビャルケがSF的思考から影響を受けていることを示している。有名な言葉ではあるが、SFプロトタイピングについて執筆している樋口恭介氏の記事にも同じ言葉が引用されている。
note.com

2つ目の引用では建築における物語共有の重要性を説き、その源流にLEGOブロックでの建築物の再現があるとビャルケは話している。

建築設計において、形態の共有、物語の共有には模型を使われることが多い。

建築家、藤村龍至氏の提唱する超線形プロセスでは、設計ルールをと明確化した上で模型によるプロセス共有、物語共有を行っている。
db.10plus1.jp

BIG事務所も模型を重視しコペンハーゲンオフィスにもニューヨークオフィスにも多くの模型が確認できる。建築模型が並ぶ設計事務所は珍しくないが、大規模事務所らしくその数は膨大だ。勿論3Dプリンターも利用しており、プロトタイピングに大いに活用しているようだ。
www.worksight.jp

www.dezeen.com

物語共有は、アウトプットを小説の形を借りることも多いSFプロトタイピングなどでも重視されている項目だ。立体物を使った物語共有の可能性はこれからも追求されるべきだと考えている。

ここまでの情報から、ビャルケ・インゲルスはすでに存在している未来を、「いま・ここ」で顕現させている建築家だと言える。

またその活動領域はノンフィクション・フィクション、ビルド・アンビルド、スモールネス・ビッグネスの意味的両極に渡り、思考だけでなく実践能力を所持しているとわかる。

ビャルケのような能力を持った建築家が出てくる事は稀だとは思うが、彼のようなトッププレイヤーでなくても、建築の可能性、そこに付随する想像力というものはもっと様々なところで利用されても良いのではないかと考えている。

BIG RECENT PROJECT BIG 最新プロジェクト

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革命家ワークキット


note記事「2月号座談会「スペキュラティヴ・デザインの手法(前後編)」に触発されて20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業を購入しました。


革命家ワークキットを社内でやってみる機会があったので結果・所感を記述します。

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引いたカード
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議論

参加者属性
  • 30代男性
  • 30代女性
  • 50代男性
  • 60代男性
引いたカード
個人ワークの結果
  • 栄養の空気化、循環
  • 食糧への変換
  • 菌類への利用、アップデート
  • 殺菌
  • 浮遊農園など、新型農園
  • 物流への利用
議論:ラウンド1

アウトプットであるコメディーから、靴をステーキとして食べるチャップリン(こち亀だったかもしれない)が想起される。→食べられないものを食べるのを見せるのは笑いにつながる。ゴミを食べるとか。
最終的に出たアイデアはハイテクサバイバルコメディ番組。無人島でナノテクを駆使して生き残る。サバイバー、いきなり黄金伝説などをヒントに。石をパンに。

議論:ラウンド2

ラウンド1で出たアイデアをアップデートする。
脱人間中心から、食べ物視点を設定しコンテンツ化、番組内に取り込む。食物視点でのサバイバル。
無人島というステージ設定から、飢餓の解決というSDGsと脱人間中心を参照した結果、食べるものを選択することで、荒廃した土地を再生させ、生態系のバランスを整えるという勝利条件に変更。
アンディ・ウォーホルのカードはポップカルチャーを牽引したという行動から、彼の作品から引用、番組にデザイン・コードを組み込みグッズ化、などの意見が出た。
彼の思想からはアイデアをアップデートできなかったが、代表的作品であるキャンベルのスープ缶や、ヴェルヴェットアンダーグラウンドのバナナなど、食品に纏わる作品も多くあることから、もう少し深堀りすれば何らかのヒントは得られそうだった。

所感

ラウンド1は、食糧、ナノテク、コメディから上手く発想ができた。特にチャップリンの発想は年配のメンバーから発言があり、自分(30代)では思いつかない着想だった。ラウンド2では選択したカードに基づいたロールプレイが必要となるため、難易度が跳ね上がる。ウォーホルに対して思想的に無知でした。
どのカードも広範な知識を求められるため、事前にカード内容の予習をしておくとスムーズに進行できそう。
今回のテクノロジーカードはナノテクノロジーだったが、適用範囲が広く、万能感があったため、アイデアも「何でもあり」なものが出揃い、アイデアが平坦になってしまった。テクノロジーの可能性と限界を知っておくと深いアイデアが出るのではないだろうか。
このワークキットで肝要なのはテクノロジーよりも「哲学」と「革命家」であり、思想でアイデアをブーストさせることが、スペキュラティブデザインの面白さなのだろう。
アウトプットは多様に用意されており、普段の自分と馴染みのないアウトプットを選ぶだけで、今までにないワークショップになる。
また、成立経緯を考えると当然ではあるがSDGsとは人間中心寄りで優等生的な思想なので、哲学と革命家によっては相性が悪い場合があり、SDGs達成が最終目標だとキツくなることがありそう。要調整。

天気の子で描かれた座標について

新海誠作品はずっと座標を描いてきた。
時間と場所と人で決まる座標、そして座標二点間の距離が外部のエネルギーでどう変わっていくかを描いているのが新海誠作品だと思う。
Z会のCMですら距離の変容が描かれている。

新海誠監督『クロスロード』受験生応援ストーリー120秒Ver.|Z会


これまでの作品で、座標を動かすエネルギーは色々あった。
子供から大人への成長だったり、雨だったり、夢だったり、彗星であったり、天気だったり。

この構成はずっと変わらないが、結末がどうなるかはわからない。
取り返しがつかなくなるほど離れてしまったり、物理的距離と心理的距離に差があったり、時を超えて近づいたり。
最終的な距離を確認するために新海誠作品を見続けているし、これからも見続けると思う。



以後天気の子の核心があります。



天気の子では、これまでになく座標自体が大きな力を持っていた。
東京という場所で、帆高と陽菜が出会ってしまったが故の世界の変容。

予告で散々言われてきた「世界を変えてしまった」と言うのが比喩でもなんでも無くて、東京を水没させる。
ボーイミーツガールが世界に接続する展開。
もはや懐かしささえ感じる物語だ。

でも世界は普通じゃなくて狂ってるから、こんな天気の変化なんて星のスケールで考えると何でもないから、二人の為だけを考えても良いんだよ、という優しく狂った力を感じた。
ここまでの強さは新海誠作品には今まで現れなかったと思う。
監督のインタビューでも強くあろうという姿勢が伺えるし、最後の帆高の「叫び」など、描きたいものを描ききったんだなというのが、作品を見たあとだとすごくわかる。

news.yahoo.co.jp


また、これまでになく終始「東京」を描いていて、監督はすでに東京を自分のものにしているとも感じた。

別作品になるが、漫画スキップとローファー(1) (アフタヌーンコミックス)では人の記憶は場所の記憶であり、だからこの東京を好きになる、と語られている。
新海誠作品もずっと人と場所で座標を定義し、物語を作ってきた。
今回は東京に別レイヤーを重ねて、他でもない東京でしか語り得ない物語を作り上げていると思う。

JR東日本かLUMINEか森ビルは、監督にビル一個ぐらい任せてみるといいんじゃないでしょうか。
東京に新海誠の独自座標が現れると、また世界が変わりそう。
力を持った座標というのがこれから必要だと思う。

ここからは雑感だけども、瀧と三葉をわざわざ出してきたり、相変わらず監督は見てきた人に優しい。
花澤香菜佐倉綾音とかね。凪くんは今までの新海誠作品にはいなかったキャラクターで良かったですね。


インタビューにも出ていた、言の葉の庭の小説版も素晴らしかったです。天気の子はこの小説の描写が結実している。

yutaiguchi.hatenablog.com

Inside Architecture

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ネクサスワールド/レム・コールハース


ia-document.com

filmarks.com


P3会議を起点に、70年代から日本の建築と建築家が社会とどう繋がりを持ってきたかが、様々な建築家・建築関係者の証言から露わになっていくというドキュメンタリー。

ピーター・アイゼンマンの悪役感なども見応えがあったが、他にも見どころはあった。

建築家ではなく、デベロッパーである福岡地所の藤氏へのインタビューは重要であったと思う。
彼は物件を売るためのブランディングとして建築家を選んだと述懐していた。形態ではなく人物で建築が建っていた時代があったということだ。

firmarksに書いたレビューを転記してみた。

時代を超える風景

安藤忠雄展は盛況だった。盛況過ぎて住宅エリアは展示物がほとんど見れなかった。

実作を見たものも多かったので、音声ガイドを聞きながら回ったが、安藤忠雄という大阪のおっちゃんは施主と仲良くなる能力が高すぎるとわかった。設計した住宅を施主から買い取って事務所にしたり、施主との思い出をスチボで作ったパネルにする。他にも安藤忠雄の建築を成立させる要因はあるが、「施主と仲良くなる」も重要な要因だと感じた。

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増築申請までして建てられた光の教会の1/1スケールの展示にも人は溢れ、皆が写真を撮っていた。10年ほど前に光の教会を見学させてもらった時とは全く違う風景だ。安藤忠雄の建築がインスタグラムの文脈に乗るとは全く持って考えなかった。
https://www.instagram.com/p/Bb3fJnClTPh/

光の教会が再現されるとわかった時、RCじゃない!という意見が溢れた。それはリアルなのか?何がリアルでリアルじゃないか。果たして建築のリアルとは?という問いかけについては豊田さんが答えている。
www.archifuture-web.jp


リアル、フェイクという軸ではなく、あり得たかもしれない並行世界。見たことがないのに見たことある風景。一度本物を見ていても、RCから鉄骨造PCパネルになっていても、今此処にあるものが本物だと思わせる。観察したものの経験をハッキングする。ポストトゥルースを肯定しつつ否定する。建築という場所にも時間にも縛られるメディアで、ここまでの力を持った安藤忠雄の作家性に驚愕した。

見たこともない風景を見たことがあると思わせ、今此処に立つ場所を肯定する。それは新海誠の描く風景と似ていると思う。
奇しくも新海誠展は、安藤忠雄展の隣で開催されている。
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アジール・フロッタン 浮かぶ避難所

8月22日まで新日石ビル1階のASJ TOKYO CELLにおいてアジールフロッタンの展示が行われている。
www.asileflottant.net

アジールフロッタンはコルビュジェがコンクリート製の船を「浮かぶ避難所」として設計し直し、増築したもので、老朽化が進んだ現在は再生計画が進められている。計画は遠藤秀平氏の設計で進められており、8月19日にはクラウドファウンディングも始めるようだ。

とても丁寧な展示で、解説も素晴らしく無料で貰える冊子だけでも行く価値はある。

ブループリントをイメージした冊子表紙。

短冊型の解説用紙も良いクオリティ。


若干無理矢理ではあるが、サヴォア邸の前に近代建築の五原則が船上で構築されていたというのが解り、とても興味深い展示だった。

そもそも船と建築というのは意外と相性がよく、豪華客船などは集合住宅とも似ていたりする。
コルビュジェのユニテ・ダビタシオンなどは客船に例えられている。

MVRDVの集合住宅サイロ=ダムなども水上に浮かぶ姿は船を連想させる。
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日本においては東新宿の軍艦マンションや、集合住宅が島を埋め尽くした軍艦島などがある。

また、ドローイングのみだが、ハンス・ホラインは空母をそのまま地表に置き、「航空母艦都市」なるものを発表している。
http://www.hollein.com/var/ezwebin_site/storage/images/kunst/flugzeugtraeger-in-der-landschaft/1967_flugzeugtraeger_in_der_landschaft.jpg/6496-1-ger-DE/1967_FLUGZEUGTRAeGER_IN_DER_LANDSCHAFT.jpg_projectimage.jpg

www.hollein.com

船=建築・都市のイメージは様々な作品に及び、マクロスシリーズやガールズアンドパンツァーの学園艦などに見ることができる。
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ともあれ、建築と船の関係を示した原初的な作品であるアジールフロッタンであった。再び触れる時を楽しみにしたい。

マルセイユのユニテ・ダビタシオン (ちくま学芸文庫)

マルセイユのユニテ・ダビタシオン (ちくま学芸文庫)

HANS HOLLEIN 作品集―a+u Extra Edition(エー・アンド・ユー臨時増刊)1985.2

HANS HOLLEIN 作品集―a+u Extra Edition(エー・アンド・ユー臨時増刊)1985.2

MVRDV: Works and Projects 1991-2006

MVRDV: Works and Projects 1991-2006

メッセージについて

 以下の文章はメッセージおよびあなたの人生の物語について過分な情報が含まれています。

 最初に映画を見た時は、子供も愛おしくなるほど可愛いし、よく出来ているなと思った。しかし原作を読み返すと、何とも言えない違和感が映画に対して生まれてしまった。
 思考は言語によって規定されるという言葉を出したのは良かったけれど、それならば何故言語自体がメッセージであり、それにより思考が変わったという結末を変えたのか。ヘプタポッドが何も残さなかったというのが重要であり、世界が結束してギフトを解読する未来は要らなかった。
 映画というメディアからして見せ方は確かに色々あるとは思うしスケールを上げなければならないというのも理解するが、最後は思考する方法が変わったというのを主にしなければ、原作のストイックさは伝わらないのではないか。思考の変化が未来視のような特殊能力っぽい描写になってるのも悪手だったなと思う。ただの思考の変化なのだから。



そうなんだよね。

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

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