書と空間
松原隆一郎氏*1の書庫、阿佐ヶ谷の書庫の話がとても興味深いものでした。
01 家の来歴|松原隆一郎+堀部安嗣 阿佐ヶ谷書庫プロジェクト[1/1]|Book Cafe 矢来町ぐるり|新潮社
阿佐ヶ谷の書庫は建築家の堀部安嗣氏の設計です。設計の過程を読む限り、堀部氏はシーケンシャルな空間を意識し、阿佐ヶ谷の書庫を設計したと読み取れます。
松原氏は独自の分類で本を配置しており、その配置をに巡ることで仕事に対応されています。
なぜ人は書庫を作ってまで本を持ちたがるのか « マガジン航[kɔː]
書庫の最も大きな意義は、「空間に情報がある」ということだと考えます。
書を空間に置くことで、座標が設定され、その座標を身体を使って検索することで、情報が身体と結びつき、記憶の顕在化が起こると考えられます。
「記憶の宮殿」という記憶術があります。小説「ハンニバル」の中でレクター博士が使っていた描写が有名です。記憶を仮想の宮殿に配置することで、膨大な記憶を保持することができます。記憶を思い出すときは、脳内の宮殿を移動し、記憶を探すのです。仮想的であれ、空間の有意さが伺えます。
また、輪るピングドラムの第9話「氷の世界」に置いても、記憶と座標を表現したような描写が見られます。陽毬は杉並区立中央図書館を抜け、「そらの孔分室」*fig1に入り込みます。膨大な物語の前で陽毬は過去を思い出します。「そらの孔分室」はOlivier Charles氏*2のCG作品であるストックホルム図書館案*fig2をモデルにしていると予想され、実在する杉並区立中央図書館とは違い架空のものです。実在の図書館から架空の図書館に切り替わることで、「そらの孔分室」が物語の中で不思議な空間であることの意味を担保しているとも考えられます。そのような場所で、本の形をした記憶を探し手に取るという表現を使うことで、身体に記憶を引き寄せたと考えられます。
身体を使った情報の検索は、記憶を思い出すというより手に取ることができるということなのでしょう。そもそも私人の蔵書コレクションというものは、その人の生きてきた記憶と言えるので当然の事と言えば当然です。しかしそのような書庫というものは、阿佐ヶ谷の書庫の例を見る限り簡単に作れるものではありません。書籍の電子化も進む現代において、書庫とは人と場所が揃い、書と空間が立ち上がった稀有なものと言えます。
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